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名古屋高等裁判所 昭和58年(行コ)10号 判決

控訴人

愛知県警察本部長

佐藤政善

右訴訟代理人

佐治良三

外六名

被控訴人

中川茂

右訴訟代理人

佐藤有文

深谷尚司

主文

原判決を取り消す。

本件訴を却下する。

訴訟費用は第一・二審とも被控訴人の負担とする。

事実

控訴人代理人は主位的に主文同旨の判決を予備的に「原判決を取り消す。被控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は第一・二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴人代理人は「本件控訴を棄却する。控訴費用は控訴人の負担とする。」との判決を求めた。

当事者双方の事実上の主張および立証は、次に付加するほか原判決事実摘示のとおりであるから、これを引用する(但し、原判決二四枚目表四行目に「2」とあるを削除する。)。

(控訴人の主張)

一  被控訴人には本件処分の取消によつて回復すべき法律上の利益はない。即ち運転者に違反行為があつた場合に当該違反行為にかかる累積点数の計算上、基礎点数に加算されるものは、当該違反行為をした日を起算日とする過去三年以内のその他の違反行為である。しかし右原則に対し、例外として当該違反行為までに違反行為をしないで一年を経過した者については、右期間前の違反行為についての基礎点数は累積点数の計算の際に計算の対象からはずされている。

被控訴人は昭和五六年七月二一日の無免許運転(以下「本件無免許運転」という。)をした日から一年間違反行為をしなかつたから、本件無免許運転の基礎点数が累積点数に加算される状態は、昭和五七年七月二〇日の経過によつて消滅したことになり、仮にそうでないとしても本件無免許運転をした日から起算して三年を経過したことによつて、右は累積点数の算出の対象でなくなり、被控訴人にはもはや回復すべき法律上の利益はない。

二  道交法一〇三条二項三号および同法施行令三八条一項二号二にいう「道路における交通の危険を生じさせるおそれがあるとき」とは、道路における交通の危険を生じさせる抽象的危険があれば足り、あえて具体的危険を要すると解すべきではない。また前記法条に基づき処分するについて、運転免許を受けた者の運転に関する心理的適性の欠除を示す外形的事由と同人自身の運転の危険性との間に高度の蓋然性を要すると解することも誤りである。

(被控訴人の主張)

被控訴人が本件無免許運転の日から一年間違反行為をしなかつた事実は認める。その余の控訴人の主張は争う。

(新たな証拠)〈省略〉

理由

一控訴人が被控訴人に対し、昭和五六年七月二一日、被控訴人の運転免許の効力を同日から同年八月一九日まで三〇日間停止する旨の処分(以下「本件処分」という。)をしたこと、控訴人が被控訴人に対し、昭和五六年七月二一日、被控訴人が道交法一〇八条の二、一項二号に規定する講習を受講したことにより運転免許の効力停止の期間を二九日短縮し、同日一日とする処分をしたこと、被控訴人が本件無免許運転をしたことを理由に点数が加算され、被控訴人から運転免許の効力停止の点数に達したとの通知を受け、昭和五六年九月三〇日聴問会が開かれたこと、本件処分の効力は昭和五六年七月二一日の経過によつて消滅したが、消滅後も被控訴人に本件処分の取消によつて回復すべき法律上の利益が存する限り本件処分の取消を求める訴の利益は存することおよび本件処分が取消されない限り、被控訴人は本件無免許運転を理由に運転免許の効力停止の処分を受けることになることに対する当裁判所の認定および判断は原判決理由一12(一)の通りであるからこれを引用する(但し、原判決二六枚目表九行目に「証」とあるを「言」と改める。)。

二被控訴人が、いまだ右運転免許の効力停止の処分を受けていないことは弁論の全趣旨によつて認められるところ、上来認定したとおり被控訴人が右処分を受ける状態に達したとしても同処分をするのは道交法一〇三条二項によれば運転免許を受けた者の住所地を管轄する公安委員会(愛知県においては愛知県道路交通法施行細則(昭和三五年一二月一四日愛知県公安委員会規則第六号)によつて控訴人)の裁量行為であるから、右処分は本件処分によつて法律上当然もたらされるものとはいえない。

しかしながら、本件無免許運転が、違反行為として道交法施行令別表第一の一所定の基礎点数が付され、右が将来の処分の加重事由となるならば、被控訴人には本件処分の取消によつて回復すべき法律上の利益があるというべきであるが、それにしても本件無免許運転の行われたのは昭和五六年七月二一日であり、且つ同日を起算日として一年の間に被控訴人には前記別表記載の違反行為のなかつたことは当事者間に争いがないのであるから、本件無免許運転は昭和五七年七月二一日以降は累積点数の合算の対象たりえないことになる。そうすれば被控訴人にはもはや本件処分の取消によつて回復すべき法律上の利益がないことに帰し、よつてこれと結論を異にする原判決を取消し、本件訴を却下することとし、控訴費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民訴法九六条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(竹田國雄 海老澤美廣 笹本淳子)

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